『白樺書房・この街に文化の灯りを灯し続ける』
カラッと晴れ渡った夏の日の昼下がり、松戸市五香を訪ねました。
駅前通りの外れにあるパーキングにクルマを停めて、五香駅に向かって歩きはじめます。
若い頃から旅好きの私は、今でも知らない場所や街を訪れる際には決まって胸がドキドキします。
こんな気持ちはいくつになっても変わりません。
ヨークプライス(旧イトーヨーカドー )のかどを曲がると五香の駅前通りが目に飛び込んできました。
「わぁー!アーケードがある!」
駅前通りの両側のゆったりとした歩道が続き、その上には立派なアーケードがかかっています。
正面に見える五香の駅に向かって駅前通りはわずかにカーブを描いています。
その様子に美しさを感じます。
この日は夏の日差しが強かったのですが、アーケードが見事に日陰を作ってくれています。
もちろん、雨の日も雪の日も、通りを行く人にとって、このアーケードはありがたいものです。
少し前まではアーケードのかかった街を良く見たものですが、最近は商店街そのものが郊外のショッピングモールに移り、アーケード商店街が役割りを終えてきていることは悲しいですね。
さて、今日の目的地は『白樺書房』さんです。
最近、町の本屋さんが一軒、また一軒と消えていっています。
しかし、私たちの会社の社員さんであるMさんのお父さんとお母さんが、この町で本屋さんを50年以上続けていると聞き、そのお店である『白樺書房』を尋ねてみました。
「あっ、ありましたよ!」
Mさんから小さなお店ですよ、と聞いていましたが、なかなか立派なお店です。
さっそく店内に入ると、Mさんのお母様が出迎えてくれました。
初めてお会いするのですが、気さくな笑顔が素適なので、こちらの緊張感も自然とほぐれて行きます。
そして、お店の奥にいらっしゃるMさんのお父様にもご挨拶させていただきます。
お父さんの目元がMさんにそっくりなので、やはりまた私の緊張感もいくらか下がります??
お父さんは今年88歳。
耳が遠くなっているので、私がメモ帳に質問を書き、それをお母様がサインペンを使って紙に大きく書いて(筆談の通訳?)くださいました。
1970年にイトーヨーカドー五香店がオープンして、当時は五香駅からイトーヨーカドーへ向かう大勢の人でこの駅前アーケードも賑わい、その1年後に『白樺書房』を出したところ、非常に多くのお客様がいらっしゃて大変繁盛したそうです。
時は高度成長時代、雑誌や本がよく売れて、一時は五香の街の中だけで本屋さんが8店あったそうです。
お父様、お母様はもちろんのこと、Mさんたち4人のお子さんは小学生の頃から、さらにはお孫さんたちも高校生の頃からお店を手伝っているそうです。
お正月休みも取らずに年中無休で続けてきました。
しかし、お店の経営状況が良かったのは開店してから数年。
年々、売り上げは悪くなるばかり。
何度も店をたたんでしまおうと思ったそうです。
けれども、
「この街に文化の灯りを灯し続ける」
この言葉を信念にお父様とお母様はお店を続けてきました。
先日、新聞のコラムで、
「書店は営利企業であると同時に、人々が触れ合い、地域文化の拠点となる社会共通の財産だ」
そして、その核となる性質は、
「用もないのに行くところ」
「無為の時間や目的性から離れたところから文化は生まれてくる」
そんな言葉が目にとまりました。
お父さん、お母さん、どうかお身体を大切になさってください。
そして『白樺書房』を通じて、五香の街に文化の灯をすえながく灯し続けてください。